空席通信
2009.10.11 No.132


インターミッション・戦争だ戦争だ−−−−高知の文化人の足跡 3

 日本マンガ界の草分けの人と云われている高知市出身の文化功労者横山隆一。今年は彼の生誕100年にあたる。それを記念して高知市文化プラザ「かるぽーと」内の横山隆一記念まんが館では「大フクちゃん展」が開催されている。蛇足だが、文化の発展に優れた功績を挙げたと政府が認めた人が文化功労者。年額350万円の終身年金が贈られる。
 敗戦から64回目の夏を目前にした6月に同館を訪れた。高知行きは、横山隆一の夜須町名誉町民一周年を記念して開催された「横山隆一の世界展」を訪れて以来だから、15年ぶりである。大丸デパートで開催された同展の開会前の慌ただしい時間での隆一インタビュー。あの朝の記憶は未だに心に重い。

 「かるぽーと」は文化と自由の風を受けて帆走する船をイメージして設計された地下3階、地上11階(総事業費190億円)の高層建築である。その西半分をしめる3,4,5階に「まんが館」がある。「天才マンガ家・横山隆一を顕彰し、マンガ文化の発信拠点を目指すもの」というのだから興味深い。
 功績を世間に明らかにして表彰することが「顕彰」であると思われているが、もう一つ、顕彰には「物事がはっきりと現れる」意味もある。辞典は「功績」を「国や社会に尽くしたてがら」「物事をうまく成し遂げたてがら」と説いている。「まんが館」が横山隆一をどのように顕彰しているか。彼の「てがら」を検証しながら「まんが館」のこれからを考えてみよう。




「フクちゃん部隊」「ススメフクチャン」…。題名を変えながら連載し、全国的にファンを広げたフクちゃん

 横山隆一は高知城東中学校を卒業して上京、美術学校の入学に失敗してから彫刻家・本山白雲に弟子入りする。1928年、19歳の時だ。後に桂浜に建設される白雲作の坂本竜馬像は、その頃、未だ製作途中で、アトリエには首の部分しかなかったという。隆一は内弟子生活のある時、粘土で濱口雄幸の胸像を作った。傑作のつもりだったが師の白雲は見るなり一言で「これはだめだ」。またある時、仕事の合間にマンガ雑誌に投稿していた「ナンセンスマンガ」が白雲の目にとまる。「こんな天分があるのなら、これをのばしなさい」と言われる。彫刻の修業を諦めた隆一は白雲のもとを去り、マンガ投稿仲間の杉浦幸雄、近藤日出造に出会う。三人は親交を深めながら、やがて無名のマンガ家たちに声をかけ「新漫画派集団」を結成した。1932年、23歳の時だ。当時のマスコミ市場は、北沢楽天、岡本一平、下川凹天などのベテランに独占されていて、無名の隆一たちには開放されていなかった。彼らのお裾分けがなければ新人には仕事が無かったのである。隆一らは、このような状況を集団で突き崩そうとしたのだった。呼びかけに応じた新人たちは、銀座の共同仕事場で切磋琢磨し、マスコミ市場から注目されるようになってゆく。そして隆一に新聞連載のチャンスが訪れた。朝日新聞社から声がかかったのである。「江戸ッ子健ちゃん」の誕生だ。初めは東京版だけの掲載だったが、人気が出てから全国版になり「養子のフクちゃん」「末っ子ゴロちゃん」「フクチャン部隊」「フクチャン実践」などと11回も題名を変えながら連載された。「フクちゃん」ファンが全国的にふえたのである。
 以上が、1928年から42年までの略述である。

 4階の「横山隆一展示室」に入ると、通路の左側に「隆一ギャラリー」がある。館内で販売されている『横山隆一記念まんが館常設展示図録』では「3F」と誤記されている。大きく1930年から1990年まで10年単位で大別された13bの壁面に作品群が展示されている。壁面の中段は1927年の上京から始まって1年から3,4年の単位に細別されている。私が最初に立ち止まったのは1941年から45年にあたる壁面の前だった。41年のところには「昭和16年32歳 朝日新聞執筆者として大佛次郎、林芙美子らと満州(現・中国東北部)旅行」とある。そのつぎが「1942年 昭和17年33歳 陸軍報道班員としてジャワ(現・インドネシアのジャワ島)に赴く」だ。そして「1945年 昭和20年36歳 敗戦後、執筆を再開『フクちゃん』地方新聞にて連載」にとんでいる。43、44年の表示がない。つまり昭和18、19年にあたるところ。私が隆一の「てがら」で一番見たい時代のところである。というのは、隆一が戦時下にどれだけの本を残しているのか、その全貌が不明だからだ。実はこの時期、彼は多くの作品を描いている。


(2009年8月13日から21日まで高知新聞で連載)

(→その4に続く)
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