空席通信
2009.10.11 No.132


インターミッション・戦争だ戦争だ−−−−高知の文化人の足跡 4

 私が訪ねた日、「隆一ギャラリー」に展示されていたのは、マンガ映画「フクチャンの潜水艦」を絵本にした「フクちゃんのセンスイカン」のゲラの一部、「モノシリタイチャン」、地方紙に連載された「フクちゃん」、鎌倉在住の文化人たちによる「新夕刊」(戦後のもの)だけだった。一番下に出典の説明なしでロボットが都会を破壊している大きな絵。このマンガは知っている。1943年8月号の『漫画』に掲載された「科学戦士ニューヨークに出現す」だ。『漫画』については後述する。
 「フクちゃん通り」というコーナーがある。そこに、ジャバでのフクちゃんのことや戦時中の「フクちゃん」連載一覧表があり、昭和10年代の「フクちゃん」本が何点か展示されている。しかし全貌はつかめない。
 隆一氏は、1980年の2月、鎌倉の自宅で自著について、朝日新聞社からは「フクチャン1」と言うのを70銭で昭和12年7月1日に出し、全部で18冊出版した、とのべている。




(資料1)

(資料2)

 彼は朝日新聞社だけの出版物について言及しているのだろうが、それでも事実と整合しない。私が確認した隆一の作品群を列記しよう。
「まんが館」の「戦時中の主なフクちゃん連載一覧」は「朝日新聞」に連載したものに限定しているが、1944年8月に同社が創刊した「防空新聞」がある(資料1)。この旬刊新聞は25号で終刊したといわれている。私が確認したのは22部であるが、朝日新聞の変形と考えてよいだろう。「防空フクチャン」(同)が連載されているほか、記事のカットも隆一氏が描いている。国民学校の生徒が作った「防空いろはかるた」が掲載されていて隆一氏が絵札を書いている。(資料2)  1938年に中央公論社は『科学漫画』を発行した。ポンちゃんという子どもを主人公にしたもの。「科学的な知識を面白く子どもたちに与えたい」の主旨で、「悪戯日記」「世界一周」「お留守番の冒険」「戦争だ戦争だ」の4冊シリーズ。マンガは隆一氏が描いている。「まんが館」にはこのうちの2冊が収蔵されているが、私が参観した時は展示していなかった。「冒険」「戦争だ」は収蔵していない。
 戦時下の横山隆一氏は、朝日新聞の連載の仕事のほかに、新漫画集団、大東亜漫画研究所、報道漫画研究会、新日本漫画家協会などに所属し、翼賛運動やそれらの機関誌で活躍していた。なかでも、近藤日出造氏が統括した『漫画』を機関誌とした新日本漫画家協会での活躍は、朝日新聞の連載ワークをしのぐものであった。『漫画』は「大東亜戦争中の大衆文化を明瞭に語ってくれる雑誌」といわれている。日立製作所が発行した『会社だより・昭和19年度』の社内誌には、兵器増産に総突撃しようと叫ぶ「フクチャン」が登場する。このような本も、かなりあるのではないか。
 近藤日出造の郷里にある「千曲市ふる里漫画館」を訪ねた時、彼の戦時下の作品がないけどと女性館員に質問したら「資料がない」という返事だった。ないのでなく、集める気がないのである。ビートルズの「♪everybody's got something to hide……」じゃないが、みんな何かを隠したがっていると口ずさみたくなる。
 残念ながら「まんが館」の隆一展もまた、このあたりの動静を充分に展示していないように思えた。


(2009年8月13日から21日まで高知新聞で連載)















(→その5に続く)
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