空席通信
2009.10.11 No.132


インターミッション・戦争だ戦争だ−−−−高知の文化人の足跡 7

 鎌倉の横山家の花見は、多士済々の招待客で有名だが、その様子が「吉例お花見会」のコーナーで放映されている。隆一氏の声をなつかしく聞きながら、15年前のインタビューを思いだした。
 私は戦火によって消えてしまった戦時下の文化を、その文化にかかわった人たちの表現活動から掘り起こし、忘れられ隠蔽されて闇につつまれているものを明らかにしようと、かれこれ半世紀ちかく、そのことに専念してきた。そして隆一氏から、戦時下の「フクちゃん」の表現活動について聞き出そうと、何度も鎌倉に出向いてインタビューを申し入れた。しかし、多忙ということで実現しなかった。
 くりかえしお願いして、高知市のデパートで「横山隆一展」が開催されるが、そこに招待されているので、開店前の時間なら、インタビューに応じても良いと言う返事をいただいた。そして私の高知行きとなったのであった。
 この時のインタビューの一部は1時間のドキュメント番組「ある少国民の告発・文化人と戦争」(1994年8月15日 MBSで放送)に使用した。その主要な部分を略述しよう。


中央公論社の『科学漫画』シリーズ。「戦争だ、戦争だ!」など4冊ある

 私は蒐集した彼の戦時下の作品をショウケースの上に並べながら質問した。
 「戦時中の戦争翼賛のものが多い、これらの作品について、現在どのようにお考えですか」
 「ちょっとしたものばかりでね、僕は別にちっとも後悔していない。言われるままに一生懸命やりましたからね。それから先は政治ですよ」
 「政治?」
 「戦争に駆り立てる、なんてのは政治でしょう」  「そうでしょうか。どれも読者を戦争にかりたてるマンガですね」
 「いや、そんなことは考えていない。今でも考えない。だから後悔していませんよ。自分のやることはやったんです。後は読者の責任ですよ。僕の絵を見て戦争に行った、ということは聞いたことがない」
 「フクちゃんの映画もありましたね」
 「映画は僕の知らない間に映画会社が勝手につくったんです。仲間が著作権侵害だ、金を取ろう、とはやし立て、映画会社におしかけたんだが、うまく言い含められて、万年筆一本貰って引き下がったんです。交渉相手は、確か女性だった……」〈映画「フクチャンの潜水艦」には主題歌(コロムビア100873)があって、作詞者は横山隆一氏である〉
 「潜水艦の……」と、そのことを言いかけたら
 「映画会社なんてひどいもんだ。取った金で一杯やろうと思っていた仲間もがっくりしてね。ははは……」
 「この会場には戦時中のフクちゃんがありませんね」
 「みんな無くなりました。いろいろありましたから。しかし、僕は後悔していませんよ。国民としての義務を僕なりに果たしたんですから」
 「戦中のマンガも戦意高揚のために描いたのではないんですね」
 「そうです。そんなことは政治の問題です。今でも国家要請があれば同じことをやります」
 そう言って彼はインタビューをお終いにし、オープンセレモニーのテープカットのために、そそくさと廻れ右した。。


今年6月、筆者は高知を訪ね、15年前の横山隆一氏インタビューのことを思った(横山隆一記念まんが館)

 戦争中は「敵性語」の使用が排斥されたが、『フクチャンブタイ2』や『ススメフクチャン2』などに登場するおじいさんの着物の柄は、123であったり、ABCであったりしてかなり恣意的である。123に統一されたのは、大東亜戦争が激しさを増してきた頃からだ。そして戦後はすぐABCに戻っている。時流を見る目はしたたかに持っていたのだろう。このあたりのことと、「落下傘ニュース」の無断掲載を抗議したのが敗戦の翌年であった、という話が本当かどうか、インタビューで聞くことは出来なかった。すねに傷をもった者にとって、占領軍にちかづくことは鬼門だった時期があった。戦犯として追及されることを恐れて、戦争翼賛した文化人たちは口をぬぐって沈黙していたのである。そんなムードの世相で、彼がGHQを訪ねアメリカに抗議したという話は信じられない。
 彼のことを「権力におもねらず、卑屈にならず、かといって不遜にもならない……これは結構かっこいいのである」と評した人がいるが、そうだろうか。
 華やかな資料を参観して知識を豊かにすることは大切だが、そのような資料に目くらみ、知る権利を忘れてしまっては何にもならない。いろいろな資料をとお供して、その人の実像を、自分で確かめる力を養わなければ、わざわざ参観する意味はないだろう。私は、そんなことを考えながらまっ赤な夕陽をあびて同館を出た。


(2009年8月13日から21日まで高知新聞で連載)

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