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『黄昏の戦線』は1940年6月1日に淀橋区戸塚町(現・新宿区)にあった大正書院から出版された。四六版98頁、定価は二円である。著者の印牧季雄の経歴は不詳だが、四谷区南伊賀町で印牧バロー研究会を開設していた。バローがどのような意味かわからない。舞踊教育という分野があって、遊戯会や運動会などで、遊戯を指導する先生がいるが、彼はおそらく学校舞踊に熱心な教師か舞踊家だろう。この分野では石井小浪が有名だが、その同輩だろうか。本の内容は幼稚園から青年学校までを対象にした、所謂学校舞踊の振り付け本である。
 「黄昏……」などと現在では厭戦ととられかねない外題だが、それはちゃんと「愛国学校舞踊」と副題がある。
 レポートの課題である「かちどきの歌」が、この本に収録されている。朝日新聞の当選歌で作詞者は、現在朝日新聞紙上に「おりおりの歌」の連載コラムを書いている大岡信の父親である大岡博である。作曲者は小林千代子の歌う「涙の渡り鳥」(1932・9.ビクター)で一躍注目された佐々木俊一だ。彼は「島の娘」をはじめたくさんのヒット曲があるが、きわめつけは灰田勝彦の歌う「燦めく星座」「新雪」だろうか。戦後も「高原の駅よさようなら」などと盛んである。東北の出身。東洋音楽学校でチェロを学びながら作曲家を目指したが学費がつづかず退学、バンドマンとなって独学で作曲法を学んだ。「日本人として最後の音楽職人」というトレードマークをつけられている(森本敏克『音盤歌謡史』)。
 検索サイトで「軍歌」などを検索すれば、この「かちどきの歌」が聴ける。URLもわかっているが、あえて掲載しない。自らで探して欲しい。課題の中心は、懸賞募集の時代背景や大岡博論である。大岡信が何故朝日新聞紙上に登場したのか、詳しい経緯は知らないが、親子二代で因縁があったのだろう。時代背景を知る一番手っ取り早い方法は、当時の新聞にあたることである。学芸大の図書館には1939年からの朝日新聞があるが、残念ながら、それ以前はない。このあたりのことも自身で調査するといい。
 小金井の中村研一記念美術館で、彼の戦争画二点が展示されている、と話したが、戦争画の実物には滅多にふれられないから、この機会に是非鑑賞することを、すすめる。最も夏休みがあるそうだから、開館日は予め確認したほうがいいだろう。
 諸君の期待しているミステリー新作は、涼しくなってから連載する。


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